自然と融合する、インドのモダンな住宅
敷地に生えていた200本以上の木と芝生はすべてそのまま残せるよう、住宅を設計。灼熱の寄稿ならではのディテールの工夫にも注目です。
インドの家族が暮らすこちらの家。設計にあたって施主の希望は、敷地内にある284本の木と広い芝生をそのまま残すことだった。加えて、灼熱のアーメダバードの気候にも配慮しなくてはならない。担当した〈SPASMデザインアーキテクト〉の建築家サンジータ・マーチャントさんとサンジーブ・パンジャビさんにとって、かなり取り組みがいのあるプロジェクトになった。
「木と芝生の位置によって、建物の配置が決まってきました」とマーチャントさんは言う。版築の土壁、木を残すための中庭、木製スラットが開閉する縦型ブラインド、網戸つきの横すべり出し窓、コールテン鋼のファサードなども取り入れた設計で、厳しい気候に対処している。
「木と芝生の位置によって、建物の配置が決まってきました」とマーチャントさんは言う。版築の土壁、木を残すための中庭、木製スラットが開閉する縦型ブラインド、網戸つきの横すべり出し窓、コールテン鋼のファサードなども取り入れた設計で、厳しい気候に対処している。
アーメダバードの気候は、年の大半を通じて乾燥しており、夏の数ヵ月は酷暑となる。この厳しい暑さをやわらげるため、設計チームはさまざまな手法を取り入れた。「日射しがとにかく強く、とくにこの立地では光の質が鋭くまぶしいことを実感していました」とマーチャントさんは言う。中庭があることによって対流がうまれ、上昇した熱気は外に逃げ、木々のあいだで冷やされた空気が横から室内に入ってくる。
中庭には、シダ植物、モンステラ、アロカシア、フィロデンドロン、シュロチク、ターミナリアなどが植えられ、タイマー制御のスプリンクラーで散水している。
エントランスは幅16メートル、高さ2.4メートルの、柱のないひとつながりのスペースだ。側面には木の羽板が回転する縦型ブラインドが並び、日射しを遮りつつ、広い中庭からの風を通してくれる。
エントランスは幅16メートル、高さ2.4メートルの、柱のないひとつながりのスペースだ。側面には木の羽板が回転する縦型ブラインドが並び、日射しを遮りつつ、広い中庭からの風を通してくれる。
エントランスは、この場所に育っていたニームの木(インドセンダン)を囲むようにつくられている。どこにいても自然の存在感が強く感じられる、この家全体の雰囲気にぴったりの入り口だ。「この木があることでエントランス体験が豊かになりますね。木が動いたり成長できるようにディテールを工夫した設計になっています。木製の縦型ブラインドとスライド式パネルで、両側から入る風をコントロールできます」とマーチャントさん。
エントランスから、巨大なスライド式ガラス扉で囲まれたリビングエリアへと移行する。この透明の壁面を通して、リビング・ダイニングが外に広がる緑とシームレスにつながる。カンティレバー状に突き出た上階が影をつくっているため、このエリアは涼しく保たれている。もうひとつ、熱帯の暑さ対策として取り入れているのが、粘度の高い土にセメントを8%混ぜて手作業で突き固めた土壁だ。土壁は断熱性能に優れている。「日中は、壁の外側が熱を吸収し、内側にその熱が伝わるころには夜になっているので、1日じゅう過ごしやすい温度が保たれます」とマーチャントさんは説明する。
2階に上がるメインの階段は、ちょっと変わったしつらえになっている。よくある壁付きフローティング階段にはしたくないと考えた設計チームは、材木置き場で木を乾燥させているイメージの階段を思いついたそうだ。手すりはローズウッドで、角の曲がる部分には鋳造した真ちゅうを使ったエレガントなつくりだ。
2階には、2つめのリビングエリアがある。この家の家具はすべて特注デザインで、「鏡、タオルラック、本棚、洗面台、テレビ台、サイドテーブル、入れ子式トレーなど、すべて専用にデザインされたものです」とマーチャントさん。
娘さんの部屋は、遊び心のあるインテリアに仕上げた。ベッドも、デスクも、収納も、箱を積み上げたようなデザインにすることで、色彩ではなく、空間的な配置で楽しさを演出したとマーチャントさんは説明する。
「プロジェクト全体において、最高レベルの職人技を取り入れる努力をしました」とマーチャントさんは言う。マスターベッドルームはスパのような雰囲気で、ダブルシンクの洗面室は、インド産バンスワラ大理石(バンスワラ地方で産出される白地に黒い模様の入った大理石)の1つの塊から切り出して手作業で仕上げたものだ。
2階では、日射しから守ってくれる木が周囲にないため、階下とは異なるデザインアプローチを用いた。外側にもう1つファサードをつくるため、支えとなる専用のレンガ壁を構築し、高さ5.5メートルのコールテン鋼パネルを吊っている。こうして内側の構造から離れた、通気性のあるファサードをつくり、アーメダバードの熾烈な暑さから家を守っている。この「外皮」には小さな穴がたくさん開いており、穴を通り抜けて冷やされた空気が中に入ってくる。
穴の開いたコールテン鋼は、ジャーリ(装飾的な格子細工を施したスクリーン)の役割を果たし、サルケジ遺跡やシディ・サイエド・モスクなど、アーメダバードの建築文化がヒントになっている。「このヴォリュームの角の部分では、穴のかたちで木や枝のモチーフを描いています。アーメダバードにある素晴らしい建築、シディ・サイエド・モスクのジャーリへのオマージュですね」とマーチャントさんは言う。「日中、このスペースには光と影の美しい模様が描き出されます」。
ガラスのスライド式ドアを完全に開放すれば、ダイニングルームがプールへとつながる。「お客様をおもてなしするときには、派手すぎないエレガントさを演出したかったので、大きなよろい戸のような扉に、手作業でつくられた大きなダイニングテーブル、真ちゅうのハンドル付きの回転台などをあしらいました」とマーチャントさん。
どんなHouzz?
住まい手:夫婦、その両親と娘さん
所在地:インド西部、グジャラート州アーメダバード
規模:ベッドルーム×5
主任建築家:ディヴィエシュ・カルガスラ
設計:〈SPASMデザインアーキテクト〉のサンジータ・マーチャント、ディヴィエシュ・カルガスラ、ガウリ・サタム、マンスーア・アリ・クダルカ、サンジーブ・パンジャビ
「私たちは、家を部屋の集合体ではなく、空間体験として捉えています」と言うマーチャントさん。建物のデザインや建設を、木の配置に合わせることが必須だったため、地面を手作業で掘って慎重に基礎工事をしたところもある。木が生えている場所に応じてさまざまなサイズの中庭をつくっているため、結果として複数の空間がつながった自由なかたちが完成した。